このブログについて
こちらはBL作家宮緒葵のブログです。
活動情報や、たまに日々の呟きなどをアップしていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
サークル名『JIROZA』(ジローザ)にて、主にJ.GARDENなどのイベントに参加しています。
イベント参加予定…2020年4月 J.GARDEN48
新刊予定…未定
【委託中の同人誌】
『ばらいろのひび』(プラチナ文庫『渇仰』『渇命』番外編)
→フロマージュさん
→コミコミスタジオさん
『狂犬レゴラメント』(プラチナ文庫『狂犬ドルチェ』番外編)
→フロマージュさん
→コミコミスタジオさん
『弟が異世界の王様だったのでロイヤルニートになろうと思う 上』(同人誌オリジナルストーリー)
→フロマージュさん
→コミコミさん
同人誌の既刊情報については続きからどうぞ。
活動情報や、たまに日々の呟きなどをアップしていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
サークル名『JIROZA』(ジローザ)にて、主にJ.GARDENなどのイベントに参加しています。
イベント参加予定…2020年4月 J.GARDEN48
新刊予定…未定
【委託中の同人誌】
『ばらいろのひび』(プラチナ文庫『渇仰』『渇命』番外編)
→フロマージュさん
→コミコミスタジオさん
『狂犬レゴラメント』(プラチナ文庫『狂犬ドルチェ』番外編)
→フロマージュさん
→コミコミスタジオさん
『弟が異世界の王様だったのでロイヤルニートになろうと思う 上』(同人誌オリジナルストーリー)
→フロマージュさん
→コミコミさん
同人誌の既刊情報については続きからどうぞ。
聖なる遊戯
*リンクスロマンス『聖なる捕喰』番外編*
……何で俺、こんなことしてるんだろう……。
はあ、と深い溜め息を吐きつつも、有江佑真は素早くコントローラーを操作した。大型画面の中、今しも追跡者に捕まりそうだった少年が、くるっとターンして逃れる。
『お待ち下さい、お坊っちゃま』
だっと駆け出した少年を追いかける追跡者は、クラシカルな黒のエプロンドレスを着こなした金髪のメイドだ。やや垂れた青い瞳と、エプロンを押し上げる豊かな胸元が印象的な美女である。あいにく佑真の審美眼をくすぐるタイプではないが、お世話されたい男は山ほど居るだろう。…その白い手に、熱した火かき棒を握ってさえいなければ。
画面からは不安を煽る不気味なBGMが流れ続けている。佑真は少年を近くの応接間に逃げ込ませ、ソファの下に潜り込ませた。すぐ後にメイドが現れるが、さんざん部屋の中を探し回った末、少年には気付かないまま応接間を出て行く。
ぱたんとドアが閉まると同時に、BGMがやんだ。メイドは追跡を諦めたのだ。しばらくすればまた命懸けの追いかけっこが始まるが、当面の危機は去ったと思っていいだろう。
「……あー、冷や冷やしたぁ……」
ソファの隣にかけた三枝宝が、抱えた大きなクッションにぽすりと顎を埋めた。十七歳の誕生日を迎えたばかりだが、あの美鶴の弟だけあって美少年だ。大人と少年の狭間にある者特有の青さすら花のように匂い立ち、人目を惹き付ける。
「冷や冷やしたって、お前はずっと見てるだけだったくせに」
「だって佑真が、よけいなことしてメイドに見付かるから。俺が言った通り、まっすぐ次の目的地に向かえば良かったのに」
じゃあお前がプレイしろよ、と返したくなるのを佑真は必死に堪えた。今日の佑真の仕事は、このわがまま坊っちゃんのお守りである。それが美鶴からの言い付けである以上、手を抜くという選択肢は存在しないのだ。宝が機嫌良く過ごしていれば美鶴は喜び、佑真の愛する聖母の美貌も保たれるのだから。
育ての親でもある兄から与えられるものを何の疑問も無く受け取り、育ってきた箱入りの宝だが、高校生ともなればさすがに自分の好みが出てくる。最近ではゲームソフトに興味があるようで、一日二時間だけという美鶴の言い付けを良い子に守りつつ熱中していた。
数あるジャンルの中でも、この頃のお気に入りはホラーゲームらしい。特に好きなのは佑真が今プレイさせられているこのソフトだ。自分の好きなゲームを他人にも勧めたい…などという可愛らしいものではない。自分では恐すぎてプレイ出来ないから、佑真にプレイさせ、見物を決め込んでいるだけなのだ。
佑真にしてみれば、自分でプレイしないゲームのどこが面白いんだと思うのだが…。
ーーだって、ストーリーはすごく気になるんだもん。
と、そういうことらしい。ゆえに美鶴が一日留守にする今日、お守りを仰せ付けられた佑真は、宝にねだられるがままスーツ姿でゲームをプレイしている…というわけだ。自分でプレイも出来ないくせに、ああしろこうしろといちいち口を挟んでくる宝に従いながら。
「あ、そこの奥に隠し扉から廊下に出て、右に曲がって」
オレンジジュースを飲みながら、宝が指示する。
このゲームは、いきなりとある貴族の末裔だと言われ、両親のもとからさらわれてきた少年が、古城をさまよいながら脱出を目指す…というものだ。勿論ただ城内を探索するだけではなく、各パートごとに追跡者が存在し、少年を追いかけてくる。捕まれば、シチュエーションによって様々な痛い目に遭わされた挙げ句に倒されてしまい、ゲームオーバーである。
今プレイ中のパートの追跡者は、さっきも追ってきた美貌のメイドだ。普段はメイドとして淡々と仕事をこなしているのに、突然豹変し、無表情で高笑いしながら追いかけてくるのが非常に恐ろしい。
「……うわ、出た!」
宝に指示されるがままチェストを調べたら、何故かあのメイドが潜んでいた。悲鳴を上げる宝を横目に、佑真は廊下に飛び出し、長いカーテンの陰に隠れる。
メイドは勿論追ってくるが、このゲームは基本的に初めて隠れた場所であれば見付からないシステムだ。今回はやり過ごせるとわかっているはずなのに、宝は微かに目を潤ませ、小刻みに震えている。
「…お前、攻略サイトとかチェックしまくってるくせに、よくそんなに恐がれるな」
「し、しょうがないだろ。メイドさんが恐いんだもん」
「恐いってなあ…前のパートの追跡者はそこまで恐がってなかっただろ?」
前のパートの追跡者は、目出し帽をかぶった大男だった。見た目だけは美しいメイドより、よほど恐ろしいはずなのだが。
「だって、綺麗な人って恐いだろ」
「……はあ?」
思わず間抜けな声を上げてしまった。綺麗な人が恐いって、よりにもよって何を言ってるんだこの坊っちゃんは。
「美鶴と一緒に暮らしてるくせに?」
「何で兄貴が出て来るんだよ。兄貴が恐いわけないだろ。兄貴はこのメイドより百倍綺麗だけど、優しいし頭もいいし料理も上手だし」
…うん、確かにそうだよね。(弟だけに)優しいし、(人を陥れる方面にばかり)頭もいいし、(小さい弟を自分の料理だけで育てたかったから)料理も上手だよね。知ってる。
「人を傷付けることなんて絶対にしないし、困ってる人を見かけたら助けずにはいられないし。確か今日も、同業者の相談に乗ってあげてるんだろ? 何か、経営が悪化したからって…」
…うん、そうだよね。あいつ、肉体には絶対傷なんて付けないし。心を抉る方がダメージ大きいって知り尽くしてるし。困った奴を見かけたら、助けるふりで奈落に突き落とすよね。溝に落ちた豚は油をぶっかけてやればいいって言ってたよ。滑って自力では絶対に這い上がれなくなるし、放っておけば誰かが火を点けるだろうって。今日の同業者も、元々はあいつが手を回して没落させたんだよ。弟に嫌がらせをしたからって。今頃、ブヒブヒ鳴くいい雄豚になってるんじゃないかなあ?
「……ああ。そうだな」
心の中に沸き上がる本音を、佑真は大人の笑みで覆い隠した。真実など、永遠に知らなくていい。聖母の手で育てられ、その胎に囚われる運命の王子は。
休憩のために一旦ゲームを中断しようとした時、玄関のドアが開く音がした。このマンションの鍵を持っているのは、佑真の他には美鶴と宝だけだ。画面に一瞥もくれず、宝は玄関目指して駆けていく。
「兄貴、お帰り!」
「ただいま、宝。せっかくの休みの日なのに、一人にしちゃってごめんね」
「いいよ、そんなの。…それ何?」
「宝にお土産。ここのケーキ、好きでしょう?」
兄弟の仲睦まじい会話が近付いてくる。やがてリビングに現れた美鶴は、予想通り腕に宝を纏わり付かせていた。愛しい弟にだけ向けられる聖母の笑みが、佑真の心に染み渡る。
…これだから、宝のお守りはやめられない。
「一人とは酷いな。俺だって休みなのに、王子のためにゲームなんかしてたんだぜ」
「ゲーム?」
首を傾げる美鶴の横で、王子って呼ぶな、と宝が喚いている。その頭をひと撫でしただけで宥め、美鶴はテレビ画面を見遣った。アップで映し出されたままの金髪美女メイドと、現実世界の聖母が画面越しに向かい合う。
「…やっぱり、兄貴の方が綺麗だ」
うっとりと兄に見惚れる宝は、いつまでその無邪気さを保っていられるだろうか。
聖母の真実の姿を、佑真は知っている。彼が自分から弟を奪おうとする者にどれだけ容赦が無いか、その足でどれだけ多くの人々を踏みにじってきたかも知っている。
そう遠くないうちに、宝は美鶴に堕ちるだろう。愛しい我が子を抱いたその時こそ聖母は生まれるのだと思うと、それだけでぞくぞくする。
――宝が聖母に捕喰されるまで、あと三年。
……何で俺、こんなことしてるんだろう……。
はあ、と深い溜め息を吐きつつも、有江佑真は素早くコントローラーを操作した。大型画面の中、今しも追跡者に捕まりそうだった少年が、くるっとターンして逃れる。
『お待ち下さい、お坊っちゃま』
だっと駆け出した少年を追いかける追跡者は、クラシカルな黒のエプロンドレスを着こなした金髪のメイドだ。やや垂れた青い瞳と、エプロンを押し上げる豊かな胸元が印象的な美女である。あいにく佑真の審美眼をくすぐるタイプではないが、お世話されたい男は山ほど居るだろう。…その白い手に、熱した火かき棒を握ってさえいなければ。
画面からは不安を煽る不気味なBGMが流れ続けている。佑真は少年を近くの応接間に逃げ込ませ、ソファの下に潜り込ませた。すぐ後にメイドが現れるが、さんざん部屋の中を探し回った末、少年には気付かないまま応接間を出て行く。
ぱたんとドアが閉まると同時に、BGMがやんだ。メイドは追跡を諦めたのだ。しばらくすればまた命懸けの追いかけっこが始まるが、当面の危機は去ったと思っていいだろう。
「……あー、冷や冷やしたぁ……」
ソファの隣にかけた三枝宝が、抱えた大きなクッションにぽすりと顎を埋めた。十七歳の誕生日を迎えたばかりだが、あの美鶴の弟だけあって美少年だ。大人と少年の狭間にある者特有の青さすら花のように匂い立ち、人目を惹き付ける。
「冷や冷やしたって、お前はずっと見てるだけだったくせに」
「だって佑真が、よけいなことしてメイドに見付かるから。俺が言った通り、まっすぐ次の目的地に向かえば良かったのに」
じゃあお前がプレイしろよ、と返したくなるのを佑真は必死に堪えた。今日の佑真の仕事は、このわがまま坊っちゃんのお守りである。それが美鶴からの言い付けである以上、手を抜くという選択肢は存在しないのだ。宝が機嫌良く過ごしていれば美鶴は喜び、佑真の愛する聖母の美貌も保たれるのだから。
育ての親でもある兄から与えられるものを何の疑問も無く受け取り、育ってきた箱入りの宝だが、高校生ともなればさすがに自分の好みが出てくる。最近ではゲームソフトに興味があるようで、一日二時間だけという美鶴の言い付けを良い子に守りつつ熱中していた。
数あるジャンルの中でも、この頃のお気に入りはホラーゲームらしい。特に好きなのは佑真が今プレイさせられているこのソフトだ。自分の好きなゲームを他人にも勧めたい…などという可愛らしいものではない。自分では恐すぎてプレイ出来ないから、佑真にプレイさせ、見物を決め込んでいるだけなのだ。
佑真にしてみれば、自分でプレイしないゲームのどこが面白いんだと思うのだが…。
ーーだって、ストーリーはすごく気になるんだもん。
と、そういうことらしい。ゆえに美鶴が一日留守にする今日、お守りを仰せ付けられた佑真は、宝にねだられるがままスーツ姿でゲームをプレイしている…というわけだ。自分でプレイも出来ないくせに、ああしろこうしろといちいち口を挟んでくる宝に従いながら。
「あ、そこの奥に隠し扉から廊下に出て、右に曲がって」
オレンジジュースを飲みながら、宝が指示する。
このゲームは、いきなりとある貴族の末裔だと言われ、両親のもとからさらわれてきた少年が、古城をさまよいながら脱出を目指す…というものだ。勿論ただ城内を探索するだけではなく、各パートごとに追跡者が存在し、少年を追いかけてくる。捕まれば、シチュエーションによって様々な痛い目に遭わされた挙げ句に倒されてしまい、ゲームオーバーである。
今プレイ中のパートの追跡者は、さっきも追ってきた美貌のメイドだ。普段はメイドとして淡々と仕事をこなしているのに、突然豹変し、無表情で高笑いしながら追いかけてくるのが非常に恐ろしい。
「……うわ、出た!」
宝に指示されるがままチェストを調べたら、何故かあのメイドが潜んでいた。悲鳴を上げる宝を横目に、佑真は廊下に飛び出し、長いカーテンの陰に隠れる。
メイドは勿論追ってくるが、このゲームは基本的に初めて隠れた場所であれば見付からないシステムだ。今回はやり過ごせるとわかっているはずなのに、宝は微かに目を潤ませ、小刻みに震えている。
「…お前、攻略サイトとかチェックしまくってるくせに、よくそんなに恐がれるな」
「し、しょうがないだろ。メイドさんが恐いんだもん」
「恐いってなあ…前のパートの追跡者はそこまで恐がってなかっただろ?」
前のパートの追跡者は、目出し帽をかぶった大男だった。見た目だけは美しいメイドより、よほど恐ろしいはずなのだが。
「だって、綺麗な人って恐いだろ」
「……はあ?」
思わず間抜けな声を上げてしまった。綺麗な人が恐いって、よりにもよって何を言ってるんだこの坊っちゃんは。
「美鶴と一緒に暮らしてるくせに?」
「何で兄貴が出て来るんだよ。兄貴が恐いわけないだろ。兄貴はこのメイドより百倍綺麗だけど、優しいし頭もいいし料理も上手だし」
…うん、確かにそうだよね。(弟だけに)優しいし、(人を陥れる方面にばかり)頭もいいし、(小さい弟を自分の料理だけで育てたかったから)料理も上手だよね。知ってる。
「人を傷付けることなんて絶対にしないし、困ってる人を見かけたら助けずにはいられないし。確か今日も、同業者の相談に乗ってあげてるんだろ? 何か、経営が悪化したからって…」
…うん、そうだよね。あいつ、肉体には絶対傷なんて付けないし。心を抉る方がダメージ大きいって知り尽くしてるし。困った奴を見かけたら、助けるふりで奈落に突き落とすよね。溝に落ちた豚は油をぶっかけてやればいいって言ってたよ。滑って自力では絶対に這い上がれなくなるし、放っておけば誰かが火を点けるだろうって。今日の同業者も、元々はあいつが手を回して没落させたんだよ。弟に嫌がらせをしたからって。今頃、ブヒブヒ鳴くいい雄豚になってるんじゃないかなあ?
「……ああ。そうだな」
心の中に沸き上がる本音を、佑真は大人の笑みで覆い隠した。真実など、永遠に知らなくていい。聖母の手で育てられ、その胎に囚われる運命の王子は。
休憩のために一旦ゲームを中断しようとした時、玄関のドアが開く音がした。このマンションの鍵を持っているのは、佑真の他には美鶴と宝だけだ。画面に一瞥もくれず、宝は玄関目指して駆けていく。
「兄貴、お帰り!」
「ただいま、宝。せっかくの休みの日なのに、一人にしちゃってごめんね」
「いいよ、そんなの。…それ何?」
「宝にお土産。ここのケーキ、好きでしょう?」
兄弟の仲睦まじい会話が近付いてくる。やがてリビングに現れた美鶴は、予想通り腕に宝を纏わり付かせていた。愛しい弟にだけ向けられる聖母の笑みが、佑真の心に染み渡る。
…これだから、宝のお守りはやめられない。
「一人とは酷いな。俺だって休みなのに、王子のためにゲームなんかしてたんだぜ」
「ゲーム?」
首を傾げる美鶴の横で、王子って呼ぶな、と宝が喚いている。その頭をひと撫でしただけで宥め、美鶴はテレビ画面を見遣った。アップで映し出されたままの金髪美女メイドと、現実世界の聖母が画面越しに向かい合う。
「…やっぱり、兄貴の方が綺麗だ」
うっとりと兄に見惚れる宝は、いつまでその無邪気さを保っていられるだろうか。
聖母の真実の姿を、佑真は知っている。彼が自分から弟を奪おうとする者にどれだけ容赦が無いか、その足でどれだけ多くの人々を踏みにじってきたかも知っている。
そう遠くないうちに、宝は美鶴に堕ちるだろう。愛しい我が子を抱いたその時こそ聖母は生まれるのだと思うと、それだけでぞくぞくする。
――宝が聖母に捕喰されるまで、あと三年。
出来る犬の贈り物
*プラチナ文庫『渇仰』ホワイトデー番外編*
フットライトの灯りにぼんやりと照らされた、真夜中の寝室。
ベッドの中でスマートフォンをじっと見詰めながら、青沼達幸は考え込んでいた。ブラウザ画面に表示されているのは、人気メンズ雑誌のホワイトデー特集だ。
タイトルはずばり、『絶対に外せない! 本命彼女に喜ばれるお返しギフト』。女性に喜ばれそうなアイテムを年代順にラインナップし、価格帯から渡すシチュエーションまで、人気モデルやコラムニストが細やかにアドバイスしている。
「うふ、ふふ、ふふふっ」
愉悦の笑いがこみ上げ、達幸はそっと腕の中を覗き込んだ。達幸の胸に顔を埋めて眠る飼い主兼恋人の明良は、達幸が寝乱れた髪に口付けを降らせたり、あちこち舐め回しても目覚める気配すら無い。ついさっきまで達幸の無尽蔵の精力に付き合わされ、数時間以上鳴かされていたのだから、しばらくは何をされても眠り続けるだろう。
「俺はあーちゃんの犬だもの。あーちゃんの犬は、俺だけなんだもの」
一月前のバレンタインデー。若い女性を中心に絶大な人気を誇る俳優・青沼幸のもとには、事務所を通じて大量のチョコレートやプレゼントが届けられた。SNSではお礼のコメントを出したが、勿論一つも達幸は受け取っていない。達幸が受け取ったのは、明良がくれた小さな箱入りのチョコレートだけだ。
明良も美形だから、チョコレートを渡そうとする女性は多かったが、全て断ってくれた。…正確に言えば、明良が女性からのチョコレートを受け取ったりすれば達幸が荒れ狂ってしまうため、松尾が絶対受け取らないで下さいと懇願した結果なのだが。
つまり明良にホワイトデーのお返しをあげられるのは、この世に達幸ただ一人だけということである。これぞ犬の特権だと、明良からもらった首輪を嵌めて世界中に喧伝してやりたいが、明良に泣かれてしまうから不可能だ。
だからせめて、たった一人の犬として明良に一番相応しいものを贈りたい。そしてあわよくば、達幸は本当に賢くていい犬だねえと撫でてもらうのだ。
明良の白い脚に己のそれを絡ませ、スマートフォンの画面をスクロールしていく。
……最推しは限定コスメセットか。
可愛らしくラッピングされたコフレを一瞥し、達幸は首を振る。駄目だ。ただでさえ綺麗な明良がメイクなんてしたらますます綺麗になり、他の雄に狙われてしまう。
次は花束。…これも却下だ。綺麗な明良には百万本の薔薇だって敵わないけれど、花々に彩られた明良に数多の雄が血迷うに決まっている。
無難なラインナップが続き、次は入浴剤。勿論これも駄目だ。綺麗な明良がいい匂いを漂わせてみろ、絶対にさらわれる。
更に一流ブランドのルームウェア、アクセサリー、香水と続いていき、達幸は溜め息を吐いた。この企画を立てた奴は、救いようのない無能に違いない。綺麗な明良がいっそう綺麗になってしまうアイテムばかり揃えるなんて、明良を狙う雄を煽るだけではないか。
…いや、他人に頼ろうとした達幸が愚かだったのだ。ここは達幸自身がじっくり考え、吟味しなければならない。明良に相応しい一流品で、明良に喜ばれ、なおかつ明良の美しさが他の雄に伝わらない贈り物……。
無駄に高性能な頭脳をフル回転させーー達幸は青い瞳をぱあっと輝かせた。閃いたのだ。条件全てを満たす、最高の贈り物を。
「…どうしてこうなった?」
三月十四日、ホワイトデー。いそいそと広げられた『お返し』を前に、明良は頭を抱えていた。それはどこからどう見ても、猫の着ぐるみだったからだ。
…品質はいいのだろう。使われている布地はたまにイベントで見かけるものより明らかに高品質だし、猫耳にあしらわれたイヤリングには、明良の目が確かなら本物の宝石が用いられている。今明良が着ているスーツの、軽く十倍はするはずだ。
……でも、どうしてホワイトデーに着ぐるみ?
「これなら、綺麗なあーちゃんを他の雄に狙われずに済むもの」
疑問だらけの明良に、達幸は嬉しそうに笑って説明してくれる。着ぐるみとイヤリングは某一流ブランドのオーダーメイドだから間違い無く一流品であり、全身を覆ってしまうから他の雄に目を付けられることも無い。ホワイトデーのお返しとして、最高のものを用意出来たと。
……こんなもの着て歩いたら仕事にならないし、その前に通報されてしまうわ!
喉元までせり上がった叫びを、明良は呑み込んだ。だったら部屋の外に出なければいいよねと、達幸に抱き潰されてしまう未来を予知してしまったのだ。
「……ありがとう、達幸」
来年は絶対、チョコレートなんてやらない。
固い決意を胸に、明良は着ぐるみを受け取った。
フットライトの灯りにぼんやりと照らされた、真夜中の寝室。
ベッドの中でスマートフォンをじっと見詰めながら、青沼達幸は考え込んでいた。ブラウザ画面に表示されているのは、人気メンズ雑誌のホワイトデー特集だ。
タイトルはずばり、『絶対に外せない! 本命彼女に喜ばれるお返しギフト』。女性に喜ばれそうなアイテムを年代順にラインナップし、価格帯から渡すシチュエーションまで、人気モデルやコラムニストが細やかにアドバイスしている。
「うふ、ふふ、ふふふっ」
愉悦の笑いがこみ上げ、達幸はそっと腕の中を覗き込んだ。達幸の胸に顔を埋めて眠る飼い主兼恋人の明良は、達幸が寝乱れた髪に口付けを降らせたり、あちこち舐め回しても目覚める気配すら無い。ついさっきまで達幸の無尽蔵の精力に付き合わされ、数時間以上鳴かされていたのだから、しばらくは何をされても眠り続けるだろう。
「俺はあーちゃんの犬だもの。あーちゃんの犬は、俺だけなんだもの」
一月前のバレンタインデー。若い女性を中心に絶大な人気を誇る俳優・青沼幸のもとには、事務所を通じて大量のチョコレートやプレゼントが届けられた。SNSではお礼のコメントを出したが、勿論一つも達幸は受け取っていない。達幸が受け取ったのは、明良がくれた小さな箱入りのチョコレートだけだ。
明良も美形だから、チョコレートを渡そうとする女性は多かったが、全て断ってくれた。…正確に言えば、明良が女性からのチョコレートを受け取ったりすれば達幸が荒れ狂ってしまうため、松尾が絶対受け取らないで下さいと懇願した結果なのだが。
つまり明良にホワイトデーのお返しをあげられるのは、この世に達幸ただ一人だけということである。これぞ犬の特権だと、明良からもらった首輪を嵌めて世界中に喧伝してやりたいが、明良に泣かれてしまうから不可能だ。
だからせめて、たった一人の犬として明良に一番相応しいものを贈りたい。そしてあわよくば、達幸は本当に賢くていい犬だねえと撫でてもらうのだ。
明良の白い脚に己のそれを絡ませ、スマートフォンの画面をスクロールしていく。
……最推しは限定コスメセットか。
可愛らしくラッピングされたコフレを一瞥し、達幸は首を振る。駄目だ。ただでさえ綺麗な明良がメイクなんてしたらますます綺麗になり、他の雄に狙われてしまう。
次は花束。…これも却下だ。綺麗な明良には百万本の薔薇だって敵わないけれど、花々に彩られた明良に数多の雄が血迷うに決まっている。
無難なラインナップが続き、次は入浴剤。勿論これも駄目だ。綺麗な明良がいい匂いを漂わせてみろ、絶対にさらわれる。
更に一流ブランドのルームウェア、アクセサリー、香水と続いていき、達幸は溜め息を吐いた。この企画を立てた奴は、救いようのない無能に違いない。綺麗な明良がいっそう綺麗になってしまうアイテムばかり揃えるなんて、明良を狙う雄を煽るだけではないか。
…いや、他人に頼ろうとした達幸が愚かだったのだ。ここは達幸自身がじっくり考え、吟味しなければならない。明良に相応しい一流品で、明良に喜ばれ、なおかつ明良の美しさが他の雄に伝わらない贈り物……。
無駄に高性能な頭脳をフル回転させーー達幸は青い瞳をぱあっと輝かせた。閃いたのだ。条件全てを満たす、最高の贈り物を。
「…どうしてこうなった?」
三月十四日、ホワイトデー。いそいそと広げられた『お返し』を前に、明良は頭を抱えていた。それはどこからどう見ても、猫の着ぐるみだったからだ。
…品質はいいのだろう。使われている布地はたまにイベントで見かけるものより明らかに高品質だし、猫耳にあしらわれたイヤリングには、明良の目が確かなら本物の宝石が用いられている。今明良が着ているスーツの、軽く十倍はするはずだ。
……でも、どうしてホワイトデーに着ぐるみ?
「これなら、綺麗なあーちゃんを他の雄に狙われずに済むもの」
疑問だらけの明良に、達幸は嬉しそうに笑って説明してくれる。着ぐるみとイヤリングは某一流ブランドのオーダーメイドだから間違い無く一流品であり、全身を覆ってしまうから他の雄に目を付けられることも無い。ホワイトデーのお返しとして、最高のものを用意出来たと。
……こんなもの着て歩いたら仕事にならないし、その前に通報されてしまうわ!
喉元までせり上がった叫びを、明良は呑み込んだ。だったら部屋の外に出なければいいよねと、達幸に抱き潰されてしまう未来を予知してしまったのだ。
「……ありがとう、達幸」
来年は絶対、チョコレートなんてやらない。
固い決意を胸に、明良は着ぐるみを受け取った。
あっという間に一か月
Twitter(@aoi_miyao)を始めてから、あっという間に一か月が経過しました。
最初は不安と心配ばかりでしたが、やり始めてみれば楽しいことばかりで、案ずるより産むが易しですね。たくさんの方々にフォローして頂き、楽しく呟かせて頂いております。今のところ、一日に一、二度くらいののんびりペースですが、よろしければチェックしてやって下さいませ。現在、お仕事情報などはほぼこちらでご案内しております。
そう言えばJガーデンのスペース頂けてました。「あ17b」です。現在、新刊の準備も進めておりますが…昨今の情勢ではどうなるか、なかなか予想がしづらいですね。私も場合によっては、参加を見合わせることになってしまうかもしれません。ひとまずは主催者様のアナウンスをチェックしつつ、うがい手洗いを忘れず原稿を進めておきたいと思います。皆さんもどうかお身体はくれぐれも大切に…!
最初は不安と心配ばかりでしたが、やり始めてみれば楽しいことばかりで、案ずるより産むが易しですね。たくさんの方々にフォローして頂き、楽しく呟かせて頂いております。今のところ、一日に一、二度くらいののんびりペースですが、よろしければチェックしてやって下さいませ。現在、お仕事情報などはほぼこちらでご案内しております。
そう言えばJガーデンのスペース頂けてました。「あ17b」です。現在、新刊の準備も進めておりますが…昨今の情勢ではどうなるか、なかなか予想がしづらいですね。私も場合によっては、参加を見合わせることになってしまうかもしれません。ひとまずは主催者様のアナウンスをチェックしつつ、うがい手洗いを忘れず原稿を進めておきたいと思います。皆さんもどうかお身体はくれぐれも大切に…!
Twitter始めました
ようやくというか、とうとうというか、Twitterを始めました。
@aoi_miyao
まだ始めたばかりであまり呟けていませんが、お仕事情報や日常や猫などを呟いていく予定ですので、アカウントをお持ちの方はフォローして頂けると嬉しいです。どうぞよろしくお願い申し上げます。
@aoi_miyao
まだ始めたばかりであまり呟けていませんが、お仕事情報や日常や猫などを呟いていく予定ですので、アカウントをお持ちの方はフォローして頂けると嬉しいです。どうぞよろしくお願い申し上げます。